0001_歌詞分析について

歌詞分析をするにあたって
 

 
・はじめに
 インターネットを見渡してみると、作詞法というものは音楽理論のように体系的に説明されていることがないように見受けられます。しかし、実際に分析してみるとポピュラー音楽と同等の複雑さを持った法則的な構造物であることがわかります。
 商業音楽の作詞者のためにこの文章を書きます。
 
・作詞の法則性について
 エネルギーがE=mc²という簡単な方程式で表せるように、基本的に自然や人間は複雑に見えてシンプルな法則性でできています。その中で作られる歌詞やそれを含む音楽も同様です。
 物理法則に反するものが存在してもこの宇宙に干渉できないのと同じように、法則に反するほど人間への働きかけは無に近づいていく、つまりどんどんと売れなくなっていきます。
 そして歌詞というシステムの法則性の中枢をなすものが押韻です。
 
押韻について。
 英語圏では押韻が重要で、歌詞にこれがないと売れないと云われています。
 例えばマインド[mind]とブラインド[blind]、これらは読みの響きが似ていることから押韻として利用されたりします。ライム、韻をふむ、などとも言います。
 
例)High on Life / Martin Garrix
 ・1番Aメロ[Verse1]
 Killed the demons of my mind
 Ever since you came around
 We're a river, running wild
 How could I have been so blind?
 
 下線部が全て押韻です。マインド、アラウンド、ワイルド、ブラインドという韻を踏んでいます。
 英語圏への進出をしている韓国では、例え韓国語で歌っていても韻を意識しています。
 日本語でも無意識への働きかけが期待されるかもしれません。
 
・日本語歌詞の押韻について
 日本語の場合は押韻はダジャレを連想させるという意見もあり、効果的かつハイセンスに用いないと危険です。そのためか英語圏と違い、「意味そのもの=意味の構造=フレーズの機能」での押韻関係がよく見られます。
 
例)ライラック / 美波
 ・1番Aメロ
 いつかの声が今僕の心を窮屈にしていく
 ああだったんでしょ こうだったんでしょ
 身勝手解釈receiver
 変わらなきゃ飽きましたって 変われば変わりましたよねって
 一体なんだい?それなんだい?
 矛と盾は無くならないようでして
 
下線部押韻です。
身勝手解釈receiver」と「矛と盾」はともに印象的な独自表現で、それが3行ごとに来ることによって機能的な意味での押韻関係となっています。
 
 また、最初の※の「ああだったんでしょ……」に対して「いったいなんだい?」と呼びかけに応じるかたちになっており、ここも広義の押韻係にあります
 
・抽象歌詞構造
 今後アナライズしていくときに出てくる歌詞の構造を「抽象歌詞構造」と名付けることにします。aやcなどで表現される抽象的な歌詞の意味の構造を取り出すのでこのように名付けました。この中に出てくる要素はすべて[aⁿ, bⁿ, cⁿ, dⁿ, enⁿ, fⁿ]という6つの要素に還元することができます。
 
 

 
・おわりに
 このように、日本語歌詞では例のような意味的・機能的な押韻関係が重要になってきます。
 これから分析を進めるにあたって押韻関係を中心に分析していきますので、「意味的な押韻」という概念を念頭に置いておいてください。それでは、よき作詞ライフを。